冬の里山  天城路 八丁池 2007/2/4

− 天城路 八丁池と踊り子の道 思いがけない河津桜の歓迎を受ける −

伊豆の山歩き その二

伊豆の山歩きその一



「天城の瞳」八丁池と富士山

朝早く目が覚めて温泉にゆっくりと浸かる。

気持ちの良い朝だ。

ペンションの朝食は遅い。

おにぎり弁当をお願いしてあるので、朝食は持参のパンと珈琲で済ます。

8時30分のバスで出発。

この辺には地図では3カ所のコンビニがあるはずだが、既に無くなってしまっている。

昨日通った浄蓮の滝方向へとバスは行く。



月ヶ瀬温泉、湯が島温泉などの温泉場が多い。

この湯が島は井上靖が幼少の頃過ごした所。

しろばんば」や「あすなろ物語」はこの地で過ごした経験を元に書かれている。

やがて、天城会館のバス停で一休憩。

此処は立ち寄り湯となっているが、木下順二ゆかりの地でもあり夕鶴記念館が併設されている。

やがて浄蓮の滝を過ぎて、イノシシ牧場を過ぎると道の駅「天城越えに着く」

井上靖生誕100年祭のポスターが目に付く。

井上靖というと、私には氷壁が印象に残っている。

しかしこの地湯ヶ島に来ると、遠い昔読んだ「しろばんば」や「あすなろ物語」がボンヤリと思い出される。

やがて、そのかすかな記憶は、自分の幼い頃の思い出と共に鮮やかに胸の奥から蘇ってきた。

「伊豆の踊子」は、お芝居というか憧れというか青春の甘酸っぱい一瞬の夢を思い出させてくれる。

しかし、「しろばんば」を読むと、自分の心の奥に刻み込まれた想い出や郷愁そして祖母や両親、幼なじみ

既に流れ去ってしまったて取り返すことの出来ない時の流れの切なさが胸によぎってくる。

この地では、今も秋の夕暮れには「しろばんば」が舞うという。



此処でお年寄り二人が下車。

踊り子歩道を歩くという。

やがて、水生地(すいしょうち)下バス停に着く。8時57分。



この車道414号線を真っ直ぐ行くと新天城トンネルを抜けて河津まで行くことが出来る。

普通、八丁池や天城山縦走する時はこの先の天城峠で下車をする。



八丁池に向けて踊り子歩道を歩き始める。

此処で標高が600m。

標高1180mの八丁池とは標高差が580m位有る。

普通、八丁池へは天城峠バス停から旧天城トンネル、天城峠を経由して

上り御幸歩道を登り、下り御幸歩道を下山するのが一般的だ。

しかし、上り御幸歩道は15年の大雨で崩壊し通行止めになったままになっている。

ガイドブックや、町の観光案内では下り御幸歩道を往復するように書いてある。

しかしそれではつまらない。

地元の方のプログでお訊ねすると新道が出来ているとお教え戴いた。



御幸歩道とは、昭和5年に昭和天皇が八丁池を訪れた時に歩いた道でその名が付いた。

昭和5年というと昭和天皇は丁度30歳くらいかなあ。



伊豆の踊子文学碑があるが、良く気を付けないと見落としそう。

「道がつづら折りになっていよいよ天城峠に..」と、伊豆の踊子の冒頭の名文が彫られている。



9時10分水生地に着く。看板には氷室園地と書いてある。

ここから踊り子歩道は右へと旧天城トンネルに向かっていく。

私達は左へと向かう。



新しい地図がありこれから向かう新道(水生地歩道)も描かれている。

ここから八丁池まで4.5q程のようだ。



直ぐに登山道の分岐。この上には天然氷を利用した氷室跡があり

その上には重さ10万トンもある巨石(なまこ岩)があるそうだ。

また、松本清張の推理小説天城越えの舞台にもなっているらしい。

ここからも八丁池に行けるとのレポートがあったが、現在は通行可かどうか不明。

そのまま奥に行くと広場になっている。



この通行止めの看板は至る所にあったが、新道のことは一切書いていない。

下り御幸歩道を行くと八丁池まで4.6qの看板。

林道は左へ巻いているが通行止めとなっている。



おかしいなと思っていると右に山道があった。

良く整備されてはいるが細い道だ。

天皇陛下も昔はこの様な道を歩いたのかなあ?等と話しながら行くと立派な滝が現れた。

滝に見惚れていたが、この先進む道がない。

足跡に従い沢を渡るが滝の上には上がれない。



コレはおかしいと道を引き返す。

先ほどの通行止めをよく見ると、下り御幸道はこの通行止めをくぐり抜けて行けと書いてある。

10分ほどのロスだが、綺麗な滝を見ることが出来たので良しとする。



単調な林道を行く。

この時間になると、踊り子歩道を旧天城トンネルに向かう車の音が足下に聞こえてくる。

9時35分新道への分岐に着く。



下り御幸歩道を行く場合はこの先300mに入り口があると書いてある。

私達は水生地歩道(新道)へと向かう。

直ぐに分岐があり、左へと行くと下り御幸歩道との看板。

道が新しく整備されている。

右へと行く。



この道は昨年旧道を整備して造られたらしいが、

新しい看板が設置され、かって崩壊していたと思われる場所には新しい橋が架かっている。



途中新しい崩壊場所もあるが今のところ歩行に支障はない。

この地は雨が多いせいか良く道が崩壊するようだ。整備される方は大変だろうなあ..

しばらく檜の植林地帯を行く。



沢を渡り登って行くと水平になり、下り御幸道に向かう新道との分岐に着く。

10時13分。

八丁池と旧トンネルが同じ方向に示されているので、一瞬方向感覚がおかしくなる。

ここが大見分岐点かと思ったが、違っていた。

更に登って行く。



此処から左へと水平な新道を行くと、ブナの自然林が素晴らしいらしい。

上り御幸歩道との分岐に向けて登って行く。



振り返るとブナの素晴らしい自然林が広がる。

何処までもブナの林が続いている。



次から次へと素晴らしいブナが現れる。



素晴らしすぎて感動の為言葉もでない。



10時22分大見分岐点に着く。

ゆるやかな道となる。



ブナの間に鮮やかな赤い幹の木が混ざってくる。

これはヒメシャラの木。

苔むした岩場も雰囲気がとても良い。





ブナの巨木が次から次と現れる。

ヒメシャラも独特の木肌を陽に輝かせている。

こんな赤くて立派なヒメシャラを見るのは初めてだ。



ヒメシャラとブナの林の中を緩やかに登って行く。

人工林や常緑樹の全くないこのコースは、春の芽吹きや紅葉の時はどんなに素晴らしいことだろう。



コマドリ歩道、寒天橋1.4qからの道と交わる。



とても立派なヒメシャラそしてブナの古木が次から次へと現れる。



貫禄のあるブナの古木は素晴らしい姿をしている。



千手観音のようなブナと二股のヒメシャラ



園地のような場所に来る。



やがて馬酔木のトンネルとなる。



馬酔木は今にも咲きそう。



寒天橋からの林道にぶつかる。

10時54分。



ロープが張ってあり通行止めの看板。

乗り越えていく。

新道のことは何にも書いていない。

せっかくあんな素敵な道が整備されているのにもったいないなあ..

また馬酔木の大群落の素晴らしい道。



ピークに着くと立派なトイレ。

冬用のトイレも設置してある。

トイレの前に展望台への道がある。



馬酔木のトンネルの中を行くと直ぐに鉄製の展望台に着く。

此処で標高1200m。



展望台からは馬酔木の向こうに八丁池が広がる。

池は薄い氷が張りつめている。

去年は大人が乗っても大丈夫な位厚く氷結していたらしい。

また、30年ほど前は、毎年氷結して近所の子供のスケート場になっていたとか..



ふと見ると池の向こうに真っ白な富士山の頂が顔を出している。

その左には、昨日も堪能した南アルプスの姿もクッキリと見えている。

素晴らしい眺望に、ため息を漏らしてしまう。



東へは、万三郎、万次郎へと緩やかな天城山縦走路が続いている。



記念写真を撮っていると大きなカメラをかかえた男性が登ってきたので、交代して八丁池へと下りていく。

そう言えば今日登り始めてから、初めて人に出会った。



ブナの向こうに八丁池。

下り御幸歩道への分岐を見送って湖岸に下りていく。



11時14分八丁池に到着。

誰もいない。



草原のようになっている湖岸を散歩。

湖岸はスズタケが多いと聞いていたが借り払われている。

昭和5年の天皇陛下の御幸の記念碑(テンヒツリュウショウの碑)がある。



この池は天城山の火口湖で、周囲が八丁(約880m)あったことから「八丁池」と名付けられた。

別名「天城の瞳」と呼ばれている。深さは1.0〜1.5mで海抜1170mの山頂に清らかな水をたたえ、

モリアオガエルの生息地としても有名。



少し早いが昼食にする。

ペンションで作ってもらったおにぎり弁当を頬張る。

陽差しはポカポカと暖かいが、さすがに吹く風は冷たい。

ゆっくりしていると戸塚峠から夫婦連れがやってくる。

縦走してきたのですかと聞くと、戸塚峠の下まで林道経由で車でやって来たという。

雪の状態をお聞きすると、北側斜面はかなり雪が多く驚いたと言っていた。

縦走路を見るとスズタケの中に緩やかに道が続いている。

此処から万三郎岳まで二時間ほど。

万次郎岳を経由して、四時間あれば縦走できる。

その後一時間車道を歩いたとしても、五時間ほどで天城高原のホテルのバス停まで行くことが出来る。

行きたい衝動に駆られたが、初めての道で雪もあり夕暮れには一杯一杯の時間だ。

残念だが諦めることにする。

その内親子三人組もやってきて昼食パーティを始めた。

景色を十分に楽しみ下山開始。

11時42分。



先ほどの分岐まで引き返し下り御幸歩道を行く。

天城山縦走路の立派な案内板がある。



馬酔木の緩やかな道は良く整備されていて快適な道。

その内ブナの林の中を行く。



この道にも立派なブナが次々と現れる。



やがてヒメシャラの林となると新道への分岐。

12時18分。

それにしても誰一人として出会わない静かな道だ。

こんな素晴らしい所だが、芽吹きの頃や紅葉の頃はもっと素晴らしいのだろう。

道の両側のスズタケは殆ど葉を落としている。

昨日の熊笹は枯れてはいたが、葉を落としてはいなかった。



何処までも緩やかな歩きやすい道が続く。

12時21分林道に飛び出る。

車が数台停まっている。

どこから入ってきたのだろうか?

車道を横切り、やや傾斜のある道を下っていく。

12時51分また車道に出る。



車道を行くと朝登った新道の入り口に着く。

後は車道をドンドン下り、水生地に13時11分着。

踊り子歩道を天城隧道に向けて歩く。

車がどんどん追い抜いていく。

未舗装路なので埃が舞う。

中には徒歩で歩いて帰ってくる人もいる。



自然保護に尽くしたという江藤延男さんの石碑があった。



13時26分天城隧道(旧天城トンネル)到着。

大勢いるかと思ったら誰もいない。



石積みのトンネルの中を歩いて行く。

真っ暗で気持ちが悪いと聞いていたが、洒落た電灯が点いていて怖いことはない。

このトンネルを踊り子や川端康成等、昔の人達が越えたと思うと感慨深い。



半分位行って引き返してきたが、そのまま向こうのバス停まで行けば良かったかも知れない。



立派なトイレがあるが冬は閉鎖中。

トイレの横に大きな穴があり工事中。トイレの浄化槽の工事をやっているようだ。

東屋の横に天城峠への登山道。

登ってみたいと家内が言うので登り始めたが、バスの時間に余裕がない。

途中で引き返す。



トイレの横から急降下の階段の道を下りると天城峠のバス停に着く。

13時43分のバスが出たばかり。

次は14時13分。

天城峠の途中まで行かなければ十分に間に合っていた。

どうせ次のバスなら峠まで登れば良かった。中途半端建ったと反省。

乗客ゼロのバスがやってきた。

トンネルを越えてドンドン下り、ループ橋を渡ると河津七滝へとバスは行く。

河津七滝でしばらく休憩。

此処は有名なのか大勢観光客がいる。

一つ早いバスに乗っていれば、此処で30分ほど七滝を見学することが出来たのに残念だ。



また元の道に戻り、踊り子が裸で共同浴場から学生に手を振ったことで有名な湯ヶ野の温泉を通過。

川端康成が宿泊した有名な福田屋がある。

やがてバスは河津の川を渡り、河津町役場前で下車。

実はこの近所に河津桜の原木があるというので、家内は見るのを楽しみにしていた。

少し車道を河津駅方面に行くと、花の開き始めた河津桜の原木があった。



この民家の主人が昭和30年頃、偶然に見つけた寒緋桜と大島桜の混血だ。



未だ咲き始めたばかりだが花の数は少なくても、鮮やかなピンクが青空に映えて素晴らしい。

満開になればどんなに美しいことだろうか。



この桜は2月初旬に咲き始め3月初旬まで一ヶ月余りも咲き続けるらしい。



十分に原木の桜を楽しんで河津川に向かう。



のどかな街の畑には梅やマンサクが満開。



大きな駐車場が準備されている。

仮設トイレもズラッと並んでいる。

来週から桜祭りだが100万人以上が訪れるらしい。



川縁に来ると此処でも桜は2分咲き位。



夕陽を浴びてピンクの桜が映えて見える。



菜の花も咲き始めていて、後一週間もすれば

菜の花の黄色と濃いピンクの桜が素晴らしいコントラストを見せることだろう。




桜祭りの行われる会場は綺麗に整備されている。

立派な大理石で作られた足湯があり近所の人がくつろいでいる。



土産物屋も沢山出ていた。

稲取温泉名物の吊るし雛を見ていると、つい桜餅等を買ってしまった。



駅まで川沿いを歩くと、色々な手作り品を売っている店がありつい立ち寄る。

町中にはあちこちに河津桜が植わっていて、街の人達が大事にしているのが良く解る。

15時42分に駅に着くと直ぐに伊豆急がやってきた。



この電車は前後の車両はパノラマ展望車。

中程は海を向いて座席が並んでいて雄大な伊豆の海を見ながら旅をすることが出来る。



稲取温泉では吊り雛まつりのポスターが沢山あった。

そう言えば稲取温泉は町興しで、何とかの支配人を募集しているとか?

もうすぐ決まるはずだなあ..



熱川温泉に近づくと目の前に伊豆大島が見えてくる。

熱川温泉の源泉が駅の側直ぐに湯煙を上げている。

川奈を過ぎ伊東を過ぎて熱海まで直行。

熱海で東海道線に乗り換えて7時過ぎには自宅に帰ることが出来た。

天城山縦走は出来なかったが、ポカポカ陽気の伊豆を十分に楽しむことが出来た。

伊豆の山歩き その一