里山の春 沼津アルプス 2007/3/10

− 新百名山沼津アルプスは春の花が一杯 井上靖の沼中時代を偲ぶ −

腰痛の為、一ヶ月ほど山には行っていない。

まだ、腰に違和感と左足の痺れは残っているがかなり良くなった。

リハビリの為低山歩きを計画する。

一ヶ月前行こうとして途中で腰が痛くなり中止した沼津アルプスに再チャレンジすることとする。

伊豆の達磨山や八丁池そして天城隧道を歩いてから、井上靖の少年時代の作品に興味が湧き

しろばんば」「あすなろ物語」「夏草冬濤」等を読んだ。

湯が島から出てきて、沼津中学校へ三島の叔母の家から通う時代のことを書いたのが「夏草冬濤」だ。

洪作の過ごした少年時代を振り返りながら歩くことも楽しみの一つだ。

4時過ぎに起きて、大森から川崎に出て東海道線に乗り換えて沼津に向かう。

やって来た電車は、特急列車を普通列車に変更した静岡行き。

JRは時々この様な便がある。

リクライニングのゆっくりした椅子に座るととても快適。殆ど揺れも振動も感じない。

ぐっすり寝込んで7時半頃沼津に到着。



トイレを済まし沼津アルプスの案内パンフレットを求めようとするが、未だ朝早い為案内所が開いていない。

仕方がないので今度はコンビニを探しながら沼津アルプス第一の山、香貫山(かぬきやま)193mを目指す。



三枚橋町を過ぎると三国橋にやってくる。

沼津市内地図

天城峠を源にする狩野川を渡る。

この川は洪作がふるさとでの幼少時代に思いを馳せる川で、

天城に沿った渓流や泳いだ淵を思い出す。

洪作は日本の中でも有数の美しい川だと思っている。

ちっぽけな川だと言う級友の増田と言い争いをするほど愛していた。

川の右向こうに香貫山がシルエットで見える。

しばらく歩くと左に第四小学校そして正面に市役所がある。此処を右に曲がると御成橋。

御成橋を渡ると洪作の親戚で、我が儘な美少女「蘭子」と「れい子」の住んでいた「かみき」のあった魚町。

そしてそのまま海に出ると千本浜の海岸。

洪作達が学校の帰りによく遊んだ浜だ。

そこから御用邸の更に南に下ると沼津中学校の海水浴場。

私達は市役所の角を左へと曲がる。

この右手が大正11年より洪作の通った旧制沼津中学校

(現沼津東高校。先輩に芹沢光治良、後輩に大岡信三人とも日本ペンクラブの会長を努めている。)

今は文化センターになっている。

しばらく行くとやっとコンビニを見つける。

それにしてもコンビニの少ない街だ。

コンビニの女の子に沼津アルプスへの道を尋ねるが、「沼津アルプスなんて知らない」と言う。

誰でも知っているのかと思ったがそうでもないらしい。

そのまま行くと黒瀬橋からの道に出る。

洪作達は三島の叔母の家から東海道線に沿って歩いて来て、この黒瀬橋を渡り沼津中学校に通っていた。

右へと曲がり内膳堀通りを行くと、やがて香貫山登山道の看板がある。





8時10分登山開始。

舗装路を上がっていくと、大勢のお年寄りが自転車でやって来て登り始める。

世間話をしながら楽しそうに登って行く。

結構急な道だが足取りの速いこと。

毎日登るのを日課にしているのだろう。

やがて正面に愛鷹山の向こうに大きな富士山が見えてくる。生憎雲がかかっている。

沼津の人は「富士の見える所に家を建てない」と言う言い伝えがあるそうだが、そんなの無理だ。

市内の何処からでも富士が見えるように思える。



道端にはヒメオドリコソウやクサイチゴが一面に咲いている。

犬を連れたお年寄りが下りてきて、このイチゴの花はこの山では一番最初に咲く花で、

このの実は連れている犬の大好物だと話してくれた。

ワンちゃんにとっては何時実がなるのか楽しみなことだろう。



道脇にはもうスミレの花が咲き始めている。

此処のスミレの花は小さい。

先週家内が一人で高尾山から景信山に行った時は、スミレの花は全く咲いていなかったそうだ。

やはり沼津は春が早いのだろう。



広場があり、とても展望がよい。

沼津の街を狩野川が駿河湾に流れ込み、その向こうに伊豆の山々が見える。

あの山並みが先月行った金冠山から達磨山への稜線だろう。



沼津アルプスの大きな看板があるのでこれから先の行程を確認する。



広場には若山牧水の歌碑がある。

牧水は大正9年田園生活を求めて、長男とこの山に登り沼津への永住を決意したらしい。

その後大正14年に千本松原に移り住んだという。

しかし酒をこよなく愛した牧水は肝臓を患い昭和3年に43歳にてこの世を去ったそうだ。

この五重塔は戦没者慰霊の塔。

お年寄りがお詣りをしたり掃除をしたりして綺麗にしている。

猫と鶏がのんびりと遊んでいる。



直ぐ上に香陵台があり沢山のお年寄りが声を掛け合いながら登って行ったり、下りてきたりしている。

キブシの花がもう咲きそう。



この登山道は何処からでも眺望が良く海や富士山が目の前に見える。

相変わらず富士山には雲がかかっている。



この山は常緑照葉樹が多い。

木々には説明板が掛かっており、四季折々の様子を見ていれば特徴なども直ぐ覚えることが出来るだろう。



ヒサカキの花が一杯。

このスミレはタチツボスミレだろうか?

鮮やかな色をしている。

調べたらニオイタチツボスミレらしい。

芳香がするとのことだが確かめなかった。



やがて頂上近くなるとゆったりとした道となる。



この変な形をした岩は夫婦岩?



道筋には名水と書かれた水道が何カ所かある。

どこかの谷筋から引いてきているのだろうか。

一口飲んでみたが冷たくて美味しかった。

8時49分香貫山頂上。



頂上はコンクリートの建物が占領しているが見晴らしはよい。

これから行く沼津アルプスの山々を望むことが出来る。

ずいぶんと遠くにあるように思える。

駿河湾の向こうには、伊豆の山々。

頂上から下ると沼津アルプスへの道標がある。

さあ行くぞと足を踏み入れると、通りすぎの大勢のおばちゃんから「行ってらっしゃ〜い」と声援を受ける。

みんな明るくて良いなあ..

「行って来ま〜す」と挨拶して出発。



地図に載っていない八重象山への看板がある。

(後で調べるとこの広場の何処かに三角点があり、其処を八重象山と呼ぶらしい)

桜台に来ると広々とした広場に出る。

このピンクの看板は、いい感じの看板だなあ..

おじいちゃんやお婆ちゃんが植えた椿ならみんな大事にすることだろうなあ..



桜と山椿の綺麗に整備された道を行く。

この山は非常に野鳥が多い。

山中小鳥のさえずりが聞こえている。

桜の花芽を一生懸命食べているのはアカウソだろう。

コンデジでははっきりと写らないが綺麗な色をしている。



ジシバリ?の花が咲き始めている。

ホトケノザハ咲き乱れている。



これから向かう横山や徳倉山を正面に見て、見返り坂の急で長い階段を下りていく。

登ったら下りるのが「沼津アルプスの原則」と聞いていたが、この段階ではまだ原則の怖さが解っていなかった。

舗装路に出てボロッチイ、ゴルフ練習場の横を回り込んでいく。

ネットがない場所がありゴルフボールが直撃しそうな場所がある。

男性が一人黙々と練習していた。



やがて広い車道に出る。

ここが八重坂峠。

此処で次への道がはっきりしない。

レポートを見ると多くの人が迷っている。

左へと車道を登って行くと右にイノシシ注意の看板。

その横から登山道が始まる。

9時20分。



いきなりの急登だ。

写真では解りにくいが、かなりの急登をロープを頼りに登って行く。

たった183mの山なのに一ヶ月ぶりの足にはキツく感じる。

腰は痛くはないが変な感じがあり、足に力が入らない。



やっとロープを登り切って横山頂上かと思ったら、中弛(なかだるみ)と言う所。

だらしなく一休憩をする。

中だるみとは良く付けた名前だ。

ヒサカキに似ているが赤いツボミの立派な木が多い。

休んでいると一人男性が追い抜いていった。



また更に長いロープ道を登る。

やっと頂上に着く。183mの山に登ったと思えないほど疲れた。

9時44分。

先ほど追い抜いていった男性がひっくり返って休んでいる。

やっと二山、後5山残っている。

気持ちを引き締めて下っていく。



モミジイチゴの芽が赤くて綺麗。

登ったら下りるのが原則だが、目の前の次の山の上りを考えながらドンドン下るのは精神的に辛い。



やっと横山峠に下りてくる。

この下に横山トンネルが抜けていて、バスツアーなどの沼津アルプス縦断はこの峠から始まるコースが多い。

10時5分。



早速登り始めるとやはり急坂。

途中から今まで登ってきた横山とその右に三島市街そしてその向こうに箱根連山が見える。

一際高い山が箱根駒ヶ岳と神山。ロープウェイ駅が光って見えている。

こうしてみると箱根外輪山もかなりの大きさだ。

麓から沼津商業の運動部の歓声が聞こえてくる。



噂の鎖の上り。

階段状になっているが、一段が高く鎖に頼らないと足が届かない。

踏ん張って登っていると右のふくらはぎが攣りだした。

コレはやばいと思うが踏ん張って登る。

社が並んでいる所に来るとやっと傾斜がゆるむ。



しかしそれからも容赦ない上り。

やがて明るくなると道端にナツトウダイが群生している。

トウダイグサやタカトウダイの仲間だが花の形が変わっている。



こんなに群生しているのを初めて見た。



クサボケの赤が鮮やか。

やがて平原状の頂上に着く。



徳倉山256mに到着。

10時31分。

この山はその形から象山と呼ばれ親しまれている。

沼津市街から田子の浦、富士市内まで見渡すことが出来る。



やはり富士山は雲の中。

これから向かう鷲頭山、大平山が見えている。

此処で行動食タイム。

やっと行程の三分の一。三山目。

病み上がりとは言え疲れがひどい。

金剛杖を付いた男性が登ってきて先に下りていった。

お年寄りの団体が鷲頭山方向から大勢登ってきたので山を下ることにする。

続く。